天地あめつちをなげき古 黄泉返り 時代に 背かれる 形骸化した正義に何が出来ようか 取って代わられた秩序の為に この身は何を起こせそうか 滅びを望んだのだ ならば 望まれる側になっても不思議はあるまい? 今再び引き戻す 闇に深く深く沈めた己が心を 谷風こくふうが育むのは一体何か 耳に届くこの音は 次の時代ときの鼓動か? ――ならば捧げよう 旧古われらの血で その手の盃を満たし 祝盃を上げよ 咎められるはがものか 蒿棲愴くんこうせいそうつる野を目の前に 只 立ち尽くす かざした手の上のを 今日は恨めしく思う さぁ 此世こんよに別れを告げたものから 我に会いに来よ! 祈りを込めることしか出来ない現実 終わりに向かって散りゆく花 それら全てに背を向けて、往き先に逆らうように あの黒き思いに流されてみようか――豈図あにはからんや 生きたるを教へてくれき おそれ いかり 戦慄きをいだき込み 鎖を巻かれたかのように竦む足を狩るは 戦禍の呪歌まじうた 最早 時は 潮流 止められはせぬ 先が読めぬわけでもないのに 何故にほろびに臨む? 何故に死に急ごうとする? 逝く貴方に手を伸ばす 振り払われると知っていながら まだ引き返せる まだ 間に合う―― だが この手を取る者は ついぞ、ついぞ現れなかった けつけた先 まなこに映るは殲滅の成果 騎乗の者として悠然と歩む ただ 心だけは 声にならぬ悲鳴を上げ続ける 魂の叫びは尾を引いて 勝利の美酒うまざけに酔うこともかなわず 瞬きする位の時間で良かった 一目貴方を見たかったのだよ 最後に 最、期 に・・・・・・ 再び生きて会う事など、もう ないのだから―― その血鮮やかにして 吾が目を惑わす 亡きたまへのはなむけと 今 血を連ねし者のもとへと送る 生きたるを教へてくれき 恐れ 怒り 戦慄きを いだき込む 帷子かたびらを宛がったように勇む足を駆るは 戦果の蠱唄まじうた



--------------------------------------------------------------------------------  前半 湊川の戦い 楠正成視点  後半 上に仝   足利尊氏視点