在りし日の

はやてに散らされる仇名あだな草 今宵はを幻惑にいざなう? 消ゆるいさり火 暮るる月 そして 我等はそこにあしたを見ゆる―― 従うはかご無き者々 鬼雄毅魄きゆうきはく 古き戦場いくさばから、長夜の室から這いでて 導くは巫女はふりめ 旭日に色盗られるまで 木精で目を潰すが如く 愚直なまでに突き進む 最早失うものなど、何も 何も……ないのだから 過去の栄華を誇っても仕方がない 一体何を恐れることがある? 恐怖が鎖となったのはとうの昔 向き合う創傷きずは何を語る? 流れ往きつく先はいずく? 血に刻まれたそれは やがて歴史≠ヨと名を変えてゆく 例えそれが真実であろうとなかろうとも 流転 転々 輾転反側 そうやって正義はたばかるのだよ 勝利を支える悲劇に耐えうるのか 涙が乾く暇なんぞあるのだろうか はばかりならず一生いっきを斬り捨てる 正義と正義の対立の為に 憶えておけ 正義も愛も自由も信仰も何もかも 免罪符ですらないことを ……無論 死、すらもだ 猜毀さいき不能 おのが手をよく見るがいい 微睡まどろみの心地好さにけてしまえばいいものを 猜忌さいき不要 存在そのものが妖厄神 新しいものもいずれは消えゆくもののはず なら 消えないこのこころは一体何なのか…… 今までさげすんできた者に頼り すがらなければならない心情はどうだ? 今更許しを乞われても 真情に注ぐ憐れみなど 最早持ち合わせてなどいないのだ 滄浪そうろうの水まば以って我がえいべし? 明朗な志しなくば 所詮現実うつつ戯言ざれごとよ さぁ もう香は燃え尽きた――罰を受ける時間は終いだ 残る罪の痕跡は如何にしてくれようか はやてに散らされる仇名あだな草 今宵はを幻惑にいざなう? 消ゆるいさり火 暮るる月 そして 我等はそこにあしたを見ゆる――



--------------------------------------------------------------------------------  詩中の「はやて」は火が三つという字です(品の火版)。  南北朝時代の南朝方亡霊集団視点。