幻   影
 
      この荒涼とした大地を
      位置を定めた瞳で 何を見ていた? 何を見ようとしていた? 何を・・・・・
      命を懸けてまで 記憶の大地に立ち続けたね
      定めた目線の先に 一体何を見ていたのだろうか
      星の大地を抱き締める為 天から舞い降りたる者達の末裔
      永代の末である貴方には その力は疎ましいものでしかなかったのか

      戦場に立つ度に
      ムアッキバードにペンを執らせ アズライールをぶ呪文を唱えていた
      ただ
      アズライールは 戦場ではなく地上で罪を贖い続ける日に 突然やってきた
      永訣の時は貴方に相応しく 激しい炎の中だった
      瓦解してゆく聖なる結界の中で 貴方は何を思ったのか それは誰にも分からない
 
      死を求めるのに矛盾した 貴方の養い子の存在
      その子の中に何を見つけたのか 中の何を見つめ続けていたのか・・・・・・
      自分の意志を継ぐか継がぬかを流れに任せた貴方
      失うのが恐かったから 求めようとしなかった そう、思うよ
      求めなかったが故に 却ってその子は行くべき方向を見失った
      何を以って貴方はその罪深さを償うのだ?

      歴史の"もし・・・・"を実証しようとして 礎を制ぎょした
      貴方のその行動が 更なる混乱を招いたように感じた
      しかし
      本当はこれが"もし・・・・"の先が示したものなのか?
      制禦された礎を持った 貴方の養い子は
      迷走の中 手にしたものは――恋だった

      禁じられた政策の選択肢である戦争それを嫌悪し
      希望のない戦場に 恋焦がれたその子
      政策の成果が判り切っていても それ以外に恋する事はなかった
      見ていて それはあまりに哀しい生き様だった
      だが どうする事も出来なかった

      今 貴方の養い子は
      山上に積もる星々の涙を踏みしめて
      一歩 また一歩 眩惑と戦い続けながら歩いている
      ずっと見えていながら 叩く事の出来ない天の扉
      意味を解かっているから 手を伸ばす先は いつも決まって夜明けの星
      その子に必要なのは
      孤独な道を導いてくれる 貴方という幻影 名を棄てて生きた 幻影の貴方
      
      自ら破砕した心の欠片と世界の終わりの鍵
      たったそれだけを手に その子はさまようように瓦解してゆく世界を歩く
      現実が幻影を生んでも それは消せる
      幻影が現実を生むはずがないから それは消せない

      空の果て 貴方が辿り着いた遥かな先
      その子の魂が永遠に失われる前に
      一度で たった一度でいいから
      その子に手を差し伸べて・・・・・・