五夜をこよて 今 貴方の胸中はこの零雨のようか? この雨が 視界の中にある輪郭をぼかしてゆくように 何もかもが 消えてしまえばいい そう、何もかも 身体の芯に残る 心も言葉も及ばれぬ情 夏の名残りの暑さのように うずみ火のように 抵抗を続けてやまない心の隈 本心は時に残酷だ 手を交わした時に感じた熱がまざまざと蘇る 躊躇いがちに握り返された時 そのししえから生き様を思う それに気が付いた貴方は 少し困ったように笑ってみせた そこが 分岐点だったかもしれぬ―― 奇妙な感覚 奇妙な衝撃 奇妙な物疑い・・・・ 敵対した 今なら判る己が感情 ――皮肉なものだな 本意ほいであらずとも貴方が立ちはだかるというのなら やるしか、なかろう 烈しい憤りに隠された深いかなしみ 全ての者が素直に愛しさを語ることが出来たら この世は何か変わるのか? 愛を得る為と戦いにおいては全てが正しい そう言ったのは貴方だろうに どう転ぼうと貴方にとってこの世は牢屋うなやに過ぎぬだろうな 籠の中の鳥と止まり木に縛られた鳥は 一体どちらが自由なのだろうか もう、考えるのはめよう 例え心を引き裂かれようとも 己は生きてゆかなければならないのだから――



-------------------------------------------------------------------------------- 湊川の合戦。  高師直⇒楠正成。  同じような従来の型にはまらない存在なんだがね、俺も貴方も。  けど、この立ち位置の違いはなんだ?  この戦に勝とうが負けようが将軍(足利尊氏)が心乱すのは必須。  なだめるこっちの身にもなってくれよ。という師直の心情がベース。