一 筆 箋


 
        ⇒赤橋登子
          さぞかし悲しんでいるであろうな
          さぞかし怨んでいるであろうな
          赦されずとも構わない、どう思われようと 何をされようとも
          残りをけて貴女を守り通す
          

        ⇒赤松円心
          恩賞が少なかったのが真の理由か?
          仇敵とも言えるものに身を委ね 智謀巧みな義弟と対峙する道を選んだ その真相
          そうまでして、そこまでして の者に対する君の扱いが赦せなかった
          ――そう、思えてならない


        ⇒足利高義
          これが怨まずにいられますか!?
          貴方が生きていれば。と幾度思ったことか!
          中継ぎでしかなかったはずなのに・・・・
          貴方の不在を以って 私が道は血に満たされた


        ⇒足利直冬
          一夜限りの代償が こうも高くつくとはな
          お前の不幸は母の出自の低さ
          お前の不運は私に似すぎたこと
          ・・・・・・お前は悪くないのにな 生まれたこと以外は


        ⇒足利直義
          神仏はちはいを分けてはくれなかったのだろうか
          手を取り合っていけると思っていたのは 地塘春草ちとうしゅんそうの夢だったのか?
          なぁ しきよき汝弟なおのみことよ
          どうか どうかお願いだから、返事をしてくれ・・・・


        ⇒越前局
          どうして?
          そう問いたいのは私か貴女か
          ――月の光にてられたのだよ
          そうとしか答えられない、今も昔も


        ⇒楠正成
          諌死ちょくしを覚悟していると知っていたならば
          無理にでも連れさらって 生かしておいたものを
          あぁ、・・・・・・貴方は何てひどい人なのだろうか
          この世の無常を突きつけて逝くなんて


        ⇒楠正行
          記憶と影とが重なる
          その生き様、その散り際
          かつての私がそうであるように
          吾子あこが心酔するのは無理からぬこと


        ⇒後醍醐天皇
          このような決別は望んではいなかった
          弓引くつもりなど頭になかった
          本当に心を見せることが出来たのなら
          今すぐにでも この胸を切り裂いて見せるのに・・・・・・


        ⇒後村上天皇
          の人がどれほど軽く見られているのだろうと思った
          の存在は忘却の彼方に押し流されているのかと思った
          けれども はっきりと示された意思に見えた否定の心
          ただそれは、兄の為か?それとも己の為か?


        ⇒佐々木導誉
          相反する二つのものを溶かし込む器量うつわ
          憎からず想ってしまうのはその性質故か?
          均衡を崩した今 その身に降りかかるのは・・・・
          人の身なれば 因果応報からは遁れられまい


        ⇒高師直
          正反対だからこそうまくいくと思うていた
          お互い 自分に忠実すぎたのだな・・・・
          それを見抜いていたのならば
          必要以上に苦労をかけずに済んだのにな


        ⇒新田義貞
          そう、それはもう累代るいだいから
          一歩踏み誤ればそれまでというのに よく生きてこられたものだ
          血の源を同じとしておりながらこうまで違うとは
          そして貴方も例に漏れず、ほんに不器用なお人だ


        ⇒夢想疎石
          慰霊の不発 沈黙する鎮魂の声
          甘んじて受けねばならぬものですか?
          罪の意識と恐怖に心を蝕み続けられる日々
          いっそ気が狂ってしまった方がどんなに楽なことか――

          
        ⇒護良親王
          不倶戴天の敵を見るような眼差しと顕わにされる警戒心
          何故、そうまでして嫌うのですか?
          その聡明さ 先を見通すその明るさ 真っ直ぐな心
          私は貴方のことを決して嫌いではないのに          



--------------------------------------------------------------------------------  足利尊氏の独白。