狂 咲きょうしょう

     氷雨が降る 後悔する事しか残されていない夜
     目には何も映らない
     何かを失ったようで 何も失っていない
     持っていたものを棄てただけ  
     持っているものを切り落としただけ

     ただ ただ
     ただただ逃げ続けて
     ひたすら逃げ続けた
     ぬフリが出来なかったから
     生きるということすらも無視して

     目をきつく閉じ その上からてのひらで覆っても
     X-rayに見えざるものをあばかれるように
     瞼裏まなうらに色鮮やかに死の姿を浮かび上げる
     それが
     俺にとって生きるということを自覚すること

     死者を出迎える音の名を持つ君
     その名に 幾度惹かれただろうか
     その名に 幾度救われただろうか
     だから・・・・
     いや だからこそ 俺は君の存在を無かったものにしようとする

     君にとって俺はネッカーの立方体であってほしい
     明らかになれば
     全てが空虚なものだと悟る時が来るだろうから
     人の想いが風化するように
     そう願わずにはいられない

     知っていた  
     君が自覚しなかった 希望も感情も何となく描いていた未来も
     そして その中に自分が含まれていることも
     それが 俺には耐えられなかった
     己の弱さ故に

     次に逢うは時の巡りの堕つ処
     君に絶望を与えると 一方的な約束を取り付けた
     その時から もう そう決めていた
     君の心の片隅を
     一生涯俺が占拠する為だけに――