境 涯 帰り道はないぞ 振り返り 笑って貴方は言った ・・・・・・いつ からだろうか 貴方が本当にわらわなくなったのは  きほきたる無常のかたきに立ち向かう その姿にあくがれた心はせんかたなく 玉の緒を結ぼほるのに 手が惑う かような心地も しうはあらず 貴方の前で 皆の前で装う己 本意ほいは恐怖にくらい尽くされそうになる事に怯える 徒人ただびとなり しかれども そう思わせないのは 揺蕩たゆたふ貴方が心に頼みとされたかったから 知っていた 貴方にとって己が特別ではないことなど 判っていた どう足掻こうと影になることを 要られるのならば 共に居続けられるのならば ・・・・そんな事は小事に過ぎぬ ひゃうづばと己の身に立つ白羽 もう、後はない・・・・・・ それでも 我汝を加護すべし 限りまで――



--------------------------------------------------------------------------------  楠正時→楠正行