橘月と忌月いむづきと



     やがて追いつけて参りましょう
     忍乱しのぶみだれが治まるように 笑傾えみかたまく己が口唇
     君は体、臣は影
     最後まで御供いたします


     とどめられた 思いとどまった
     にもと思えた故に
     猶々なおなお・・・・・・
     夜深よぶかに筆を走らせる


     暁闇あかときやみ天空あまつみそらに月が昇る頃
     己は既に現身うつそみではなかろうよ
     名残りを持たずして我が君のもとへと下る
     そう、――常懐とこなつかし我が君のもとへ


     慫慂しょうようされたからといって おもい逍遥しょうようすることもなく
     例えその行為がしん(※)に背くことになろうとも
     体なき影など存ずことなど出来はせぬ
     体在りて さてこそ影は存ずるのだから


     ・・・・・・別路淵瀬わかれじのふちせを前に
     皆人と水盃を交わしておきながら
     己以外 今斯いまはかう終別ついのわかれを突きつけられた この心地
     命有間いのちなるまに味はい継げと申すのですか!?


     やがて追いつけて参りましょう
     真っ先に叱責が待っていようとも
     されも 君は体、臣は影
     最後まで御供いたします  



--------------------------------------------------------------------------------  ※しんはきにょうに申。   湊川の合戦からその後の竹童丸⇒楠正成