雪糅ゆきがての雨が如したま合わば



     輪廻の外からお前の冥福を祈っている
     共に下れないと知ったら お前はどんな顔をするだろうか


     まじこられ降り立ったここは 懐かしながらも寒くて暗かった
     生きもの狂うには まだ 足りなかったようだ
     鬼哭啾々きこくしゅうしゅうたる雨の夜
     生きることを奪われた者達にのみ聞こえるけん稚が響き渡る


     今迄あまりに血が流れ過ぎた
     そして今 あまりに血を流し過ぎた
     これは引いてはきみが為だったが ――べてが裏目に出た結果か
     ならば この目を閉じることなく見届けるとしようか、この結果が生み出すものを


     暗がりの中 閃く光
     皮膚が 肉が 血管が 切り裂かれてゆく音がする
     だが もう既に 首に感じる痛みがない
     中途半端なもの全てが 死によって御破算されてゆく


     取り換えた衣は仕舞ったまま まだ取り出せないでいる
     手にしたら 主亡き衣に取りすがりそうで
     後悔、させたのではないかと 己が宿願を悔恨することになるだろうから
     このような心持ちになるのは 昔から今へと祈願し続けているこの思いが間違っているからなのだろうか


     死に臨み この名を名乗ることは出来ぬ
     だからといって・・・・・・
     いみなを犯すことを許すべきではなかった
     心が潰れそうに 痛い――


     名から 出自から のがれることなど出来ぬ
     けれども 全てを忘れ 何も及ばぬ玄地へ身を沈めたい
     ほろとこぼした我儘を お前は拾って適えてくれた
     「実際とは程遠いですが。」と謙遜して


     最期を聞いて無言むげんの情を感じた
     お前は最期の最後まで・・・・・・
     あふれた涙を溶かし込むような この激しい驟雨しゅううも
     どこかお前を思い起こさせるようで ――切ない


     共に下れないと知ったら、お前はどんな顔をするだろう
     輪廻の外から お前の冥福を祈っておるよ



--------------------------------------------------------------------------------  護良親王→村上義光。  『守拙』前後の護良親王の心情。  2段落目の最後にある「けんち」の「けん」は「牛へん」に「建」